海外の葬儀事情

日本国内においても、沖縄から北海道まで葬儀の風習はさまざまです。同じ宗教であっても、地域により葬儀の仕方は必ずしも一様ではありませんし、死者に対する扱い方も異なります。私たちが諸外国の葬儀を考えるとき、相手を理解する立場で接する必要があります。日本の葬儀習慣を強制することは国際摩擦を引き起こす原因にもなりかねません。

 

〇葬儀業を囲む環境変化

東アジアでは儒教の影響が強く、手厚い葬儀が行われますが、その1つ韓国では1969年に冠婚葬祭などの儀礼の簡素化を規定した法律が施行されました。その結果、葬儀社が出現し、葬祭業者の組織化も進みました。中国においては、国が殯葬改革を進め、葬儀の近代化、火葬の推進に精力的に取り組んでいます。欧州では、欧州共同体の動きに合わせるかのようにして、葬祭業者が国境を越えて活動するようになっています。

全世界を見渡せば、まだまだ地域共同体による葬儀が多く、葬祭業者の確立を見ないアフリカ、アジア地域や、公営が多い東ヨーロッパ諸国などもあります。しかし、近代化にともなって葬祭業者の確立が図られると共に、各地で業界団体の組織化が進行しており、公的な資格制度を採用する国もふえつつあります。それまで社会的地位が高くなかった葬祭業者の地位向上に向けての努力が盛んに行われており、IFTA(イフタ、International Federation of Thanatologists Association 国際葬儀連盟)など国際的な葬儀業者の協議団体も組織され、国境を越えた取り組みもいっそう活発になると予想されます。

 

こうした中で、欧米の業者を中心に葬祭業の業務範囲の拡大と質の変化が課題となっています。葬儀の準備とその施行という狭い範囲の業務にとどまるのではなく、埋葬や火葬に必要な書類や死亡した病院での手続き、保険金の請求業務の助言や代行、遺体の長距離・国際間移送、エンバーミングなどの遺体処置、生前予約、遺族のカウンセリング、火葬業務、墓地経営など、死によって引き起こされる一切の業務について遺族の相談にのり、必要な手続きを代行するという、総合的な業務をするよう変化しつつあります。

また、こうした業務範囲の拡大にともなって、近代企業への脱皮がなされ、経営学の知識、コンピュータ利用法といった近代経営に必要な知識や技術はもちろん、葬儀の歴史や倫理、心理学、病理学・細菌学・解剖学などの医学、葬儀に関連する法規など、業務に関連する専門的知識、技術の習得が求められるようになり、そのための教育機関も現れています。また、葬祭業の社会的な役割が強まることによって必然的に強化されるのが社会的な責任です。企業として納税義務があることなどはもちろん、消費者保護や災害時における救援活動などは葬祭業者が自覚的に取り組むべき課題となっています。

 

〇イスラム文化圏の葬儀

近年、中近東から来日する就労者や就学者も増えており、イスラム教徒の葬儀習慣を知らないために、遺体を火葬に付して問題になったこともありました。国や民族により違いはありますが、イスラム教国の諸国においては宗教が生活の中に深く根ざしており、死に対してもイスラム教の教えが強く影響しています。

イスラム教では、死はアラー(神)に定められたものであり、死者はやがて来る裁きの日に復活するまで待機のときを過ごす。周囲の人々はこれを落ち着いて受け止め、過度に嘆き悲しむことなく速やかに死者を見送る必要がある、としています。したがって、当日もしくは翌日には埋葬され、火葬は固く禁止されています。復活の日に「五体満足」である、また、火で体を焼くのは煉獄に落ちた者への罰である、と説明されています。

まず遺体は、ムスリム(イスラム教徒)の仲間によって水で清められ、白布に包まれ、棺または台に載せられ、男性だけによる葬列を組んで墓地へ行きます。都市部では、郊外の墓地まで遠いため、霊柩車も使用されます。途中にモスク(イスラム教の礼拝所)があると立ち寄って拝礼し、葬列に出合った人は起立して見送ります。墓穴には白布のまま埋葬されることが多いようです。墓標を高く建てることは少なく、埋葬跡には石を置く程度です。服喪は基本的には3日間で、この間に弔問を受けます。弔問の主たる目的は死者の身内を慰めることにあります。死者や墓は粗末にはしませんが、過度に賛美したり、大げさに弔うことはしてはいけないとされます。エジプトなどの都市部では葬祭業者の存在も認められますが、信仰を同じくする仲間により葬ることが原則となっています。

 

〇北米の葬儀事情

北米では、葬儀社に就職するにしても経営するにしても、見習いは別として、資格が必要です。資格には連邦政府資格と州政府資格があり、州によりその必要な資格が定められています。

資格はフューネラルディレクターとエンバーマーの2つに分かれており、フューネラルディレクターは、通常はエンバーマーの資格も併せて保有しているケースが多いようです。 エンバーマーはエンバーミング(遺体衛生保全、遺体に対する消毒・防腐・修復・化粧の処置の総称)の技術者、フューネラルディレクターは葬儀全般の担当者で、消費者との対応は全てフューネラルディレクターの業務です。

この2つの資格を得るためには、原則として1年以上の葬儀専門学校(または大学の葬儀学部)での履修の後、1年以上の実習を経て試験を受け、合格しなければなりません。また、資格の更新も必要で、1回合格したら永久に有資格者となれるわけではありません。 エンバーマーになるためには、化学、細菌学、解剖学、病理学を学び、薬品や遺体処置に必要な医学的知識および処置の技術を習得します。フューネラルディレクターになるためには、医学関係の知識などに加えて経営実務、社会学を学ぶと共に、葬儀の歴史などの専門的知識および遺族に対応するために必要なカウンセリングや心理学についても学びます。北米の葬儀はまずエンバーミングから始まります。病院などで亡くなった遺体は日本の斎場にあたるフューネラルホームに運ばれます。遺族の9割以上がエンバーミングを望む米国では、遺族の依頼、同意の下でエンバーミングが行われます。この間、フューネラルディレクターは遺族に棺など必要な葬具を提示し、実際に見せ、葬儀をどう行うかを相談し、費用を見積もります。どんな音楽をしようするか、どのような花を使うかなども細かく相談しますが、このとき、フューネラルディレクターは遺族に対して情報は公開するものの、どのサービス、どの物品を選択すべきかを勧めてはいけない、と法律で定められています。(消費者の選択権確保)

葬儀の実質的な中心は、日本の告別式にあたるビューイング(またはビジテーション)です。エンバーミングが済み、棺(キャスケット)に横たわった遺体と告別に訪れた人々が一人一人一定の時間内でお別れをします。宗教的な儀礼は、フューネラルホーム内のチャペルでの葬儀式、墓地での埋葬式が一般的です。フューネラルディレクターは、埋葬あるいは火葬までの葬儀の運営、手続きの代行を行うほか、葬儀後の遺族を訪問し、その悲嘆のケアも担当します。

米国ではサナトロジー、デス・スタディと言われる死や遺族の非嘆を扱う学問も発達しており、この学問成果を活かすことにも熱心です。また災害時は、フューネラルディレクターやエンバーマーが、警察、消防、医師などと共に、緊急派遣の一員に組み込まれており、死者の遺体処理、搬送を担当するなど、その社会的責任は重いものがあります。葬祭業者は専門家として社会的な地位を高めていると共に、消費者運動が活発で、消費者の強い監視の下にあるということも米国の葬祭業を囲む環境の特徴となっています。

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遺体の海外移送

近年、海外から日本に来る観光客、就労者、留学生は増加する傾向にあります。これにより、外国人が病気や事故により、日本で亡くなるケースも増えています。外国人の葬儀や遺体の取り扱いについては、それぞれの国で風習や規定が異なりますので、注意する必要があります。

まず、遺体が国内にいるときは、遺族の意思を確認すると共に、移送先の国の規定について大使館または領事館に確認の上、取り扱いを決める必要があります。遺族が日本にいないときは、大使館などと連絡を取り、海外在住の遺族の意思の確認が必要になります。

日本では遺体を火葬処理することが一般的ですが、国際的には土葬が主流です。中には火葬を認めていない国もあります。逆に、ネパールのように遺体での移送は認めず、火葬処理して遺骨で移送することを条件とする国もあります。

遺体のままで海外に移送するときは、エンバーミング(遺体衛生保全のための消毒・防腐処理)を条件としている国が多いため、それを施したうえで移送します。(遺族の依頼書が必要)また、エンバーミングを施すときには、ドライアイスは用いず、冷蔵庫による保管もしくは速やかな(原則48時間以内)処理依頼が望まれます。

 

〇海外移送のための必要書類

国により規定が異なりますが、一般に次の書類が必要になります。

1.本人のパスポート

2.死亡診断書または死体検案書

3.火葬・埋葬許可書または記載事項証明書

4.エンバーミング証明書またはエンバーマー宣誓供述書

5.非感染症証明書

6.納棺証明書

 

〇費用

葬儀、遺体処理、海外移送にかかる費用は、国内に負担する人がいればその人に請求し、海外の遺族が負担する場合にはそこに請求します。(受け入れ先の葬儀社を請求先とすることもあります。)一般に費用は高額となり、トラブルも予想されますので、請求先を事前に確認するか、移送前に料金を受領しておく必要があります。

費用には次のものが考えられます。

1.国内で葬儀した場合にはそれに要した費用

2.遺体をエンバーミング施設に搬送した霊柩車または航空機費用

3.エンバーミングの処理費用

4.書類作成費用

5.遺体保管費用

6.手続きを他に依頼する場合には、その代行費用

7、エンバーミング処置済み遺体の空港への搬送費用

8.棺、空輸ケースおよび納棺、梱包費用

9.空港から本国までの航空運賃

10.その他

国内の空港から本国までの航空貨物運賃は航空貨物運送業者が算定するものですが、1㎏あたりの運賃がわかれば、

運賃=(遺体体重+棺重量+空輸ケース重量)×1㎏あたりの運賃

で、実際に請求される運賃とほぼ近似する値が求められます。遺体処理を民間のエンバーミング施設に依頼するときは、各費用の発生元は、1と2が最初の取り扱い葬祭業者、3~9までは民間エンバーミング施設となります。

 

〇棺と空輸ケース

遺体を納める棺、空輸ケースは、送還先の国で規定されていることがあります。

棺の規定がないときは、亜鉛で裏張りした木製の空輸ケースに棺を入れることを規定している国が多く、(メタル製)密封式棺を規定している場合はエアートレイ使用を規定している国が多いようです。

イスラエルでは、プラスティック製のバックに遺体を収納し、亜鉛張り木製輸送ケースに入れ、50ポンドのドライアイスを入れる、と細かく規定しています。どれを使用するかによって金額も重量も異なります。

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相続税

死亡してその財産を相続しても、相続税が全ての人にかかるわけではありません。相続税を納付すべき財産を遺した人は、全死亡者の5%程度と言われています。

「相続財産=課税される遺産総額」ではありません。課税される遺産を計算するには次の手順で行います。

1.被相続人の遺産の総額を計算します。

被相続人(死亡者)の遺産の総額を計算し、相続人に相続開始(=死亡時)前3年以内に被相続人より贈与された財産があればこれも遺産総額に加算します。土地、家屋、事業用財産、有価証券、現金・預貯金、家庭用財産など金銭に見積りできる経済的価値のあるもので、借地権、著作権、貸付金も含まれます。

この他、本来の相続財産以外の死亡保険金、各種保険金、死亡退職金もみなし相続財産として加えて計算します。

2.遺産の総額から非課税財産と債務、葬式費用を控除します。

非課税財産とは、

①墓地、墓石、仏壇、神棚、祭具

②公益法人(日赤など)に申告期間内に寄付する金額、財産

③生命保険金のうち500万円×法定相続人数分(放棄した人の数も含む)

④死亡退職金のうち500万円×法定相続人数分(放棄した人の数も含む)

のことです。

債務とは被相続人の借入金、未納の税金などを指します。

葬式費用とは、被相続人の葬儀にかかった費用で、葬儀社への費用、寺院関係費用、接待費用、その他(火葬、霊柩車の費用など)です。香典返しの費用、法要に要する費用などは葬式費用として認められていません。

これらを控除後の財産が課税価格となります。

3.課税価格から基礎控除をします。

基礎控除額は「5000万円+1000万円×法定相続人数(放棄した人の数も含む)」で計算されます。

例えば、法定相続人が3人の場合は、

基礎控除額=5000万円+1000万円×3=8000万円

となります。

基礎控除の結果、プラスがでればそれが「課税される遺産総額」になります。基礎控除額を差し引いて財産がマイナスになれば税金はかかりませんし、相続税の申告の必要もありません。

 

法定相続人の計算の場合、養子のうち特別養子や配偶者の実子で被相続人の養子になった場合は実子と同じ扱いですが、その他の養子の場合は、実子がいるときは1名だけ、実子がいない場合には2名までのみを法定相続人数に含める制限があります。

 

〇相続税の計算

「課税される遺産総額」が計算され、相続税の申告が必要なときは、次の手順で相続税額を求めます。

1.「相続税額の総額」を計算します。

法定相続人が各法定相続分どおりに相続したものと仮定して計算した金額に、それぞれの相続税額をかけて算出したものの合計金額です。相続税率は課税価格に応じて率が定められています。

2.「各相続人の負担する税額」の計算をします。

法定相続人がそれぞれ法定相続分を相続するとは限りません。放棄したり、割合が遺言、協議により変わる場合がありますので、実際の相続の割合に応じて、各相続人の負担税額を計算します。

法定相続人が配偶者と子供2名の場合、「相続税額の総額」は配偶者が2分の1、子供が各4分の1相続したものとして計算した合計額ですが、仮に子供が各8分の1を相続した場合、実際には配偶者は税額の4分の3を負担し、子供は税額の8分の1ずつを負担するよう計算します。

3.「各相続人が実際に納付する税額」を計算します。

実際に納付する税額は、個々の相続人の事情により異なります。

①配偶者の場合、相続財産が法定相続分相当額か、あるいはそれ以上でも16000万円までなら相続税はかかりません。但し、相続人の将来の相続(二次相続のこと。10年以内に同じ財産に対して相続が発生する場合)ではこの軽減が受けられないので注意が必要です。この軽減措置を利用する場合には無効であっても申告が必要です。

②死亡前3年以内に贈与された財産が相続税の課税価格に加算された人は、すでに生前贈与分に課税された贈与税の納付済税額が控除されます。また3年以内の生前贈与があっても相続放棄した相続人は生前贈与分の加算は必要ありません。

③被相続人が、今回の相続開始前10年以内に発生した相続により相続税を納付している場合には、今回の相続で財産を取得した人は、前回の相続税額の一定割合が今回の相続税から控除されます。これを「相次相続控除」と言います。

④この他、相続人が未成年者の場合や障害者の場合には控除があります。

⑤相続や遺贈により財産を取得した者が被相続人の1親等の血族および配偶者以外のとき、つまり兄弟姉妹、甥姪などの場合、あるいは法定相続人以外の場合には、計算された相続税額に2割加算した額が納付する税額になります。

〇相続税の申告と納付

相続税の納付義務者は、相続の開始を知った日から10か月以内に、被相続人の死亡時の住所地の所轄税務署に相続税の申告書を提出し、相続税を納付しなければなりません。金銭での納付が原則ですが、困難な場合は一定の条件の下で物納や延納も認められます。

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相続人

「相続」とは、ある人が死亡したとき、その人に属していた財産上の権利義務を受け継ぐことです。

死亡した人を「被相続人」、財産を受け継ぐ人を「相続人」と言います。被相続人の借金などの債務も相続財産になりますから、相続したくないときは相続放棄や限定承認の手続きをとる必要があります。

 

〇相続人

相続人の資格のある者は、まず配偶者、子ども(胎児を含み、子どもが相続開始以前に死亡しているときは孫)です。こどもがいないときは親(直系尊属)で、その親もいないときは兄弟姉妹(兄弟姉妹が相続開始以前に死亡しているときはその子である甥、姪)となります。配偶者は別格で、次に子供、親、兄弟姉妹の順になります。(民法第886~890条)

配偶者が別格とは、配偶者がいるときはどんな場合でも相続人の資格があるということです。順位は、子がいるときは子が相続人で、その他の人には相続人の資格がなく、子がいないときには親が、子も親もいないときは兄弟姉妹が相続人の資格を得るという意味です。

〇法定相続分

相続人が受け取る財産の割り当てを「相続分」と言います。各相続人の相続分について遺言による指定がない場合は、法律で相続分を定めており、これを「法定相続分」と言います。

相続人が1人のときは、その1人が全財産を相続します。複数のときは相続人の順位に従って次のようになります(民法第900条)。

1.相続人が配偶者と子どものとき

相続分は、配偶者が2分の1、子どもが2分の1です。

2.相続人が配偶者と親のとき

被相続人にこどもがいない場合、相続分は、配偶者が3分の2、親が3分の1です。

3.相続人が配偶者と兄弟姉妹のとき

被相続人に子どもも親もいない場合、相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。

4.同じ順位が複数人のときは均等分割します。

つまり、配偶者と子ども4人のときは、配偶者が2分の1、各子どもは2分の1の4分の1、つまりこどもは全財産の8分の1ずつを相続します。

〇遺言と遺留分

被相続人は、遺言で相続分を決めたり、他人に遺贈することを定めることができますが、遺留分に関する規定を超えて遺贈、贈与(死亡1年前まで)した場合には、相続人の減殺請求により制限をうけることがあります。(民法第902条)。

〇遺産分割協議

遺言がなく、相続人が複数いる(共同相続人と言う)場合は遺産の分割について協議し、協議が整わない場合には家庭裁判所に分割を請求することができます(民法第907条)。協議によって法定相続分を放棄しようと、相続分割をどう決めようと自由です。

遺産分割協議は相続人全員が参加して合意する必要があります。全員が参加しなかったり、協議が不調に終わったときは、相続人が共同して、または1人で家庭裁判所に申し立てて調停分割され、調停が不調のときは審判分割されます。

協議にあたっては、特別受益の問題と寄与分の問題を検討する必要があります。

❶特別受益者

特別受益者とは、相続人の中に被相続人から遺贈があるか、または、被相続人より結婚、養子縁組のための支度金などとして、あるいは生計の資本として生前に贈与を受けた者のことです。特別受益者がいる場合、相続財産にその遺贈、贈与の額を加えた金額全体を相続財産とみなし、ここから各相続人の相続分を計算します。そして、この特別受益者の計算上の相続分から遺贈、贈与の額を差し引いて、残額があればそれを特別受益者の相続分とします。特別受益者は、遺贈または贈与の金額が計算上の相続分の金額に等しいか超過するときは相続分を受け取れません。(民法第903条)

❷寄与分

寄与分とは、特別受益者とは逆に、相続人の中に被相続人の財産形式に功があったり、病気介護などして財産の維持に特別の寄与した者(特別寄与者と言う)がある場合の、寄与の割合のことです。寄与分がある場合、相続開始時の財産から寄与分を除いた金額を相続財産とみなして相続分を算定します。したがって、特別寄与者の相続分は、寄与分を除いて計算した相続分に寄与分を加算した金額になります。協議がうまくいかなかったときは、特別寄与者の請求により家庭裁判所が寄与分を決めます。(民法第904条の2)

〇相続の承認、放棄

相続財産に多額の債務があって債務超過のとき、それを相続すると借金のみを背負い込

むことになります。こうした相続人を困難から保護するため、相続するか否かの選択がで

きるようになっています。限定承認と相続放棄がそれです。

「限定承認」とは、相続によって得た財産の限度で債務等を弁済し、それを超えてまでは

弁済しないことを条件とした相続です。限定相続をする場合は、相続人全員が共同で、相

続の開始を知った時から3ヵ月以内に家庭裁判所に財産目録を提出し、限定承認を申し立

てる必要があります。

相続人のうち1人でも限定承認に反対する人がいた場合、限定承認は成立しません。こ

のときは、単純承認か相続放棄のどちらかを選択することになります。

相続人は、相続の開始を知った時から3ヵ月以内に相続の承認(「単純」と「限定」が

あります)か放棄かを決め、限定承認や相続放棄の場合は、そのための手続きをする必要

があります。

もし手続きをしないと被相続人(死者)に属した一切の財産上の権利義務を無条件で承

継した、つまり「単純承認」したとみなされます。また、手続きをする以前に相続財産の

一部または全部を換金したり、消費したりして処分したとき、あるいは財産の一部を隠し

たりしたときにも単純承認したとみなされます。(民法第920~921条)。

 

〇相続人がいないとき

本人が死亡し、相続は開始されたが、相続人がいないとき、あるいは法定相続人が明らかでないときは、「相続人不存在」ということで、相続財産は法定(相続財産法人)とされ、財産管理人を置き、相続財産の権利義務を精算します(民法第951~957条)。

手続きを経て相続人がいないことが確定したとき(民法第958条の1,2)には、残った財産は「特別縁故者」がいる場合には、その請求に基づいて分与され、それでも残った財産があれば国庫に帰属します。(民法第958条の2、959条)。「特別縁故者」とは、本人と生計を同じくしていた(内縁の妻など)、療養看護に努めて特別縁故があった者のことです。

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事前相談

消費者は、地域でよく知っている業者がいる場合は別として、家族が亡くなってあわてて業者選びをします。特に大都市の場合には、親戚・知人が紹介してくれた業者、病院から紹介された業者、たまたま近所にある業者、電話帳などで調べた業者に依頼するケースが少なくありません。

業者はサービスを提供し、消費者はそれを選んで依頼する、という通常では当然の消費行動がとられることが少ないのが葬祭業者選びです。これが消費者からさまざま不満が寄せられる原因の一つになっており、葬祭業者側にも責任があります。

求められれば事前に消費者に情報を開示して、選んでもらうことが必要です。納得して自分で選んだものであれば消費者も安心ですし、両者の間での齟齬も少なくなるでしょう。また、選ばれるに足るだけの業者になるという努力も必要となりますから、より消費者志向に自身を変えていくこともでき、経営体質も自ずと強化されていくことでしょう。

消費者は今、葬儀に関心を寄せるようになっています。「事前に葬儀のことを考えるなんて縁起でもない」という考えもまだ一部にはあるものの、近年その意識がこれからの葬祭業者には必要です。消費者が葬儀について知りたい事項は次のようなことです。

①葬儀の手順など一般的な知識

②葬儀費用(料金)について

③準備しておくべきこと

④心構え

地域共同体が葬儀の運営主体であったときには、地域ごとに葬儀の仕方が決まっていて、また手伝いの形で葬儀に参加する機会も多くありました。しかし、運営までを葬儀会社が請け負うことが一般的になると、手伝いも受付など限られたものになり、葬儀の仕方についての知識も乏しくなる傾向にあります。そのため実際に当面する立場になったとき、不安も大きくなります。「準備すべきこと」や「葬儀費用について」も関心が高く、「わからない」から「知りたい」となってます。

 

〇相談の実際

1.まず、どなた(本人のか、家族のか)のことについての相談かを明確にします。

2.わからないこと、知りたいことを明確にします。(知りたいことは複数事項におよぶことも少なくありません。)

※これによって以下が異なりますが、相手か、自分が知りたいのか明確には自覚していないケースがあるので、基本的事項を確かめていきます。

3.どんな葬儀をしたいかの希望を聞きます。(宗派なども確認)

4.葬儀の手順、方法を示します。(できればパンフレットのかたちで用意しておきます。)

5.先方の予算を確認します。

6.説明しながら、相手の希望する葬儀の内容をはっきりさせます。

7.見積をします。

8.相手に確認し、希望によって調整します。

9.遺族のする仕事、業者のする仕事を明確にします。(サービス範囲を示します。)

10.さらに知りたい内容について相談にのります。

 

〇相談で注意するべきこと

・発注の確約をとってから相談にのるのはまちがい

よく「依頼するかどうかわからないのに情報を提供することは競争相手に情報を流す心配もあるのでしない」というケースがあります。選ぶのは消費者ですから、消費者が複数業者を比較するのは当然の行為です。「これでよろしかったらお引き受けします」という態度で臨むべきでしょう。

・相手の心配、聞きたいことに耳を傾けます。

「知りたい」「相談したい」のですから、よく相手の言うことに耳を傾けます。

・地域の習慣や一般的な葬儀の仕方のみを示すのはまちがい。

相手の希望をよく聞いて相談にのるのが正しい態度です。地域の習慣、一般的な葬儀についての情報の提示は必要ですが、押しつけにならないよう注意しましょう。

・見積は数字をはっきり出します。

「大体このぐらいです」ではなく、きちんと数字を出して説明します。変動費についても予測数字を出して計算します。

〇事前相談から事前予約のプロセス

1.お客の希望を聞く。

2.お客の希望を質問カードに沿って書いてもらう。

3.お客の希望に対して提案書を提出し説明する。

4.お客の同意を得る。

5.見積書を正式に発行する。

6.葬儀内容と金額を記して予約証を2通作り両者で保有する。

但し、お客様からの解約は自由としておきます。

 

消費者は、応対してくれる人の態度を見ています。誠実に対応してくれそうか、信頼できそうかなどです。また、丁寧に対応してくれるかによって、丁寧な仕事をしてくれるかもみています。また、わかりやすい説明をしてくれるか、つまり消費者の目線で仕事をしてくれるか、価格・品質などきちんと提示してくれるか、数字をごまかさないか、なども見ています。事前相談は今後ますます増加する傾向にあります。また、ここでの対応いかんによって評判も違ってきますので、きちんと対応する必要があります。挨拶をきちんとし、相手の目を見て話し、話の要点はメモをとります。また、ここで相談した内容はファイルしておいて、実際の受注の際には参考資料として、ここでの約束事項はきちんと守ることが大切です。

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法要

日本人は死者供養を大切にしてきた民族であると言えます。歴史的には、中陰の七仏事(初七日、二七日、三七日、四七日、五七日、六七日、七七日)はインドに起源をもちます。中国に仏教が伝わり、百カ日、一周忌、三回忌(満2年)の三仏事が加わり十仏事となりました。さらに日本で七回忌、十三回忌、三十三回忌が加わり、十三仏事となり、近世に十七回忌、二十五回忌が加わり、十五仏事となりました。七回忌の後が十三回忌なのは七回忌の7年目であるため、それに引き続く十七回忌は7の数字がつくからと言われます。五十回忌以降、50年ごとに行われる法要を遠忌と言い、宗派の祖師の場合などに限って営まれます。

このほか、祥月命日(故人の命日)と月忌(月の命日)があります。また、お盆や春秋のお彼岸があります。遺された者が、生ある限り、亡くなった人のことを覚え、その生を大切にして、感謝して生きる、亡くなった人との関係をずっと維持しようとするのが日本人の特性の一つと言えるかもしれません。

ちなみに弔い上げは三十三回忌または五十回忌をもって行います。死者は個性を失い、祖霊(先祖)になる、「ホトケがカミになる」と考えられ、仏壇から位牌を片づけ、それ以降祀るのは「○○家先祖の霊」の位牌になります。

 

〇十王信仰

死者は7日ごと、百カ日、一周忌、三回忌に十王の審判を受けが、遺族の追善供養の力により地獄に落ちることを免れるという十王信仰があります。

初七日には泰広王(不動明王)の審判を受け、行方定まらないものは三途の川を渡り、二七日に初江王(釈迦如来)の審判を受け、ここでも定まらないと順に、三七日に宋帝王(文殊菩薩)、四七日に五官王(普賢菩薩)、七七日に泰山王(薬師如来)の審判を受けます。この王の下で地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上の六道のいずれか決定されるので、四十九日の追善供養は特にねんごろに行う必要があると説きます。

これでも行方が定まらないと百カ日に平等王(観世音菩薩)、ここでも定まらないと一周忌に都市王(勢至菩薩)の下に行くとされますが、これはひとえに遺族の追善供養のおかげで、一周忌の功徳により三回忌の五道転輪王(阿弥陀如来)に送られます。そして充分に追善供養をすれば成仏できるとしています。ちなみに七回忌は、阿閦如来、十三回忌は大日如来、三十三回忌が虚空蔵菩薩です。祥月、月忌が一般化したのは15世紀と言われます。

地獄に対する恐怖が追善供養を一般化することを促したことも事実ですが、時代が変わっても受け入れられているのは死者を覚えておきたいとする人々の想いと重なったからでしょう。

 

〇追善供養

追善供養、追善回向と言われるものは、仏教では直接故人に対してなすものではなく、遺族が仏に供養し、その善い行いや徳を故人に振り向けるという間接的な形をとります。

浄土真宗では故人のための追善を否定し、故人を偲び、これを縁として仏法を聞く場(聞法の場)として位置づけられます。

 

〇中 陰

古代インドでは人間は輪廻転生すると考えられていました。誕生の瞬間が生有、生きている間が本有、死の瞬間が死有、死んで次の生を得る間の期間を中有あるいは中陰と呼び、中有は49日間であるとされました。この間、7日ごとに法要を行い、七七日を満中陰と言います。この49日間は、死の穢れが強い時期ということで、遺族は祭などに出ることなく謹慎して家にこもります。これを「忌中」と言います。四十九日が過ぎるとしたがって「忌明」となり、日常生活に復帰しました。

この忌中も忌明も死穢観念から出ているものですが、一方では遺族にとっては精神的に打撃を受けている期間でもあります。そこで遺族が日常生活から離れて死者の弔いに専念し、次第に精神的傷を癒し、日常生活に復帰するプロセスでもあると考えることができます。

7日ごとに集まり法要することは、死者を弔うと同時に、周囲の人が遺族の悲しみを思いやることでもあったと思います。

忌明をもって本来は「精進落とし」となっていました。また、忌明で中陰壇を片づけますが、これを「壇ばらい」「壇引き」ともいいます。それまで使用していた白木の位牌は檀那寺へ返し、漆の塗位牌を作り仏壇に納めます。また神棚の白紙などを取り除き、神社へお参りすることを「晴詣り」と称して推奨されることがあります。

「忌中」に対し、「喪中」は1年間(13か月)を指します。中国の儒礼(儒教の儀礼)では三回忌を大祥忌といい、それをもって日常生活へ復帰していたように、死後1~2年の間は遺された者の死者への想いが息づいている期間でもあります。遺族の心理的なプロセスを考えると葬儀あるいは喪中は、一周忌または三回忌あたりまで続いていると理解してよいでしょう。

 

〇中陰の繰り方、法要の日の選定

中陰法要の日の数え方は、死んだ当日を入れて7日ずつ繰ります。したがって初七日は死後7日目にあたります。関東ではこの7日目ごとの当日に、関西ではその前日である「逮夜」に法要を営むことが多いようです。法事を営む日を変更する場合には、早い日を選ぶ傾向にあります。また、家族の年回忌が近いときには一緒に行うことがありますが、三回忌までは一緒に行わず、行うときには早いものに合わせて行いがちです。例えば、祖父の十三回忌が7月10日で、父親の七回忌が7月25日である場合、7月10日あるいはそれ以前の近い日を選ぶ傾向にあります。

〇法事の営み方

身内だけで営むときは電話連絡でもよいでしょうが、四十九日、一周忌、三回忌など、関係者に広く集まっていただくときには、案内状を出し、出欠の確認をします。場所は寺院、斎場、自宅、最近ではレストラン、ホテルとさまざまです。

自宅で行う場合、仏壇のお飾り(荘厳)をします。打敷を敷いて、五具足で行うのが正式とされています。香炉を中央にし、その左右に燭台、外側の左右に花立てを置きます。供物は仏飯、餅、菓子、果物などです。供える花は三回忌までは赤など華美な花は避け、ロウソクも白を原則とします。故人の位牌、過去帳を仏壇の最下段に安置します。参列者からの供物は、仏壇の両脇などに白布で覆った小机を用意し、そこに置きます。また焼香台を用意します。

先に関係者が着席し、僧侶を迎え、読経、焼香、法話が行われます。自宅で行うときに、家族が会食の準備をしていて席につかないことがありますが、本来はそろって勤めるものとされています。

法要が終わると、会食となりますが、これを「お斎(とき)」といいます。施主が挨拶し、食事となります。このとき僧侶を上席とし、家族は末席となります。お斎の食事は、肉食を避けて菜食の精進料理でしたが、現在ではあまりこだわらないとされています。参列者には帰りに引き物(お土産)を渡す習慣があります。

 

遺族は略礼服を着るのが一般的ですが、きちんとした服装であれば平服でもよいとされています。喪服は、遺族であっても一周忌あるいは三回忌までです。遺族以外の参加者は平服でかまいません。

参列者は供物や金銭のお供えをするのが一般的ですが、これには「御仏前」または「御香資(御香料)」などと記します。

僧侶が会食の席につかないときは、折り詰めにしてもちかえり願うか、代わりに「お膳料」を包みます。僧侶に法要を勤めていただいたのに対しては「お経料」と書かれる例も見られますが「お布施」が正しいとされます。

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通夜

通夜とは古代の殯(もがり)の遺習であるとか、臨終の際の看病の延長にあるものであるといわれます。夜伽(よとぎ)とも言われ、夜を徹して死者をみまもり、枕元でお経が読まれ、念仏が唱えられました。

死とは法律的には「心停止」という<点>ですが、遺族や身近な人たちにとってはすぐ受け入れられることではありません。そこで、夜を徹して死者の枕元に侍り、生きていると同じように仕えます。ある意味では、死者と最後に過ごす大切な時間であると言えます。

遺族にとって死者はまだ完全な死者として認められた存在ではなく、生と死の境界線上にあって気持ちが揺れ動き、矛盾に満ちた状態にあります。こうした遺族の心情を大切にして通夜を過ごしたいものです。遺族が亡くなった方を囲んでお別れのための充分な時間をもつということは通夜の大切な機能なのです。

 

親族も地元にいるとは限らず、また、いろいろな人に連絡する都合もあって、死の当日は「仮通夜」と称して家族で死者を見守り、葬儀・告別式の前日を「本通夜」とするケースが多く見られます。(本)通夜は夜の6時~7時の1時間程度を僧侶の読経と弔問客による焼香にあて、終了後弔問客に対して「通夜振る舞い」の酒や食事を供し、1~2時間で順次散会、後は遺族や身近な者だけで死者を見守る、というのが一般的です。

近年は、仕事の都合から、夜間の弔問が便利ということで、通夜の参列者が告別式の参列者より多くなるという傾向がありますが、通夜の本来の意味を失わないように注意したいものです。

キリスト教のプロテスタントでは、通夜は「前夜式」と呼ばれ、礼拝が行われます。カトリック、プロテスタントともに、派手な「通夜振る舞い」は避ける傾向にあります。宗教、地域の習慣の違いにも注意しましょう。

現代の通夜が夜間の告別式のようになったとしても、最も大切なことは遺族や身近な人が死者と共に過ごす最後の時間であるということには変わりはありません。遺族は長い看病により肉体的にも疲れていることに加えて精神的にも打撃を受けていることを心に留める必要があります。

僧侶は読経の後、法話をし、仏教の教えにおいて生と死はどう考えるべきかを説き、遺族への慰めをします。また、通夜の席ではしばしば戒名が与えられます。その場合には白木の位牌、和紙、硯、筆(新しいもの)を用意しておきます。

〇通夜の準備

1. 飾りつけの確認をします。

2. 受付、案内、供養品渡し、料理の手配、などの役割を確認します

3. 遺族その他の着席場所を確認しておきます。

4. 夜間ですから照明も含めた案内の確認をします。

5. 宗教者と進行を確認しておきます。

通夜は歴史的にも変化してきたものですし、地域によっても営まれ方が異なりますが、仏教式の一般的な法要の進め方を以下に示します。

1. 時間がきたら遺族、関係者は着席します。

2. 導師が着席し、読経が行われます。

3. 導師の指示により、遺族・関係者の焼香、弔問客の焼香が行われます。遺族・関係者の焼香は回し焼香で行われることもあります。

4. 導師による法話が行われます。

5. 遺族代表が挨拶し、通夜振る舞いの案内をします。

6. 通夜振る舞いを行い、弔問客は自由に散会します。

7. 最後は遺族・関係者のみによって遺体を守ります。(灯明、香は絶やさないようにします。)

<注意点>

1. 式場の広さを確認し、棺の前に座る人を確認します。関係者だけで営むときには順次座ってもらっていいでしょうが、弔問客が多いときには会葬者の待機する場所、中に誰に座ってもらうか、などを事前に確認しておきます。

2. スペースの関係もありますから、通夜振る舞いの席に弔問客全員を案内するのか、関係者だけにするのか、確認しておきます。葬儀費用の見込み違いに「接待費用が思いがけなくかかった」ことがよくあげられます。事前に方針をきちんと確認しておく必要があります。

3. 遺族の心身の疲労もあるので、通夜振る舞いの終了時間を予め確認しておき、自然に終わりにもっていくよう配慮します。

4. 片づけ、整理を行い、遺族・関係者の方に過ごしていただく場所の設定を行います。

5. 翌日の確認を行います。通夜の弔問客の様子から火葬場への同行者の数、マイクロバス、料理、焼香順位、弔辞などに変更がないかどうかを確認します。

 

通夜振る舞いにもさまざまな形があります。酒食を供するのではなく、弔問客にお菓子をもって帰ってもらうもの、お茶だけを供するところ、食事券(寿司屋などの)を渡すものなど地方により異なります。食事を供する場合には、人数がその場にならないとわからないので、弁当などよりは盛り合わせ料理のほうが適しています。

 

また、通夜は遺族中心のものですから、葬儀業者は設営・飾りつけだけで、立ち会わない、というところもあります。しかし、通夜の時点では遺族も精神的に不安が多い時期ですから、側にいて相談にのってあげられる態勢は必要です。近年、通夜の弔問客が増える傾向もあり、葬儀習慣をよく知らない人も多くなっていますので、葬祭業者が通夜のお世話をする必要度は高まる傾向にあります。

 

通夜と葬儀・告別式との境がなくなってきたことと、礼服マナーが説かれるようになったことから、戦後(特に昭和50年代以降)になって通夜における黒服着用が一般化してきたという経緯があります。しかし、黒服は「喪服」(喪に服すときに着用する着物)として着用するものですから、生と死の境界線上に位置付けられる通夜では喪服の着用はふさわしくないとする考えもあります。特に弔問客の場合には、黒服着用は必要なく、派手でなく、きちんとした服装であれば問題はありません。

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臨終

〇死亡診断書(死体検案書)の確認

法律的には、死は医師による死亡診断書または死体検案書の交付をもって確定します。したがって遺体の取り扱いにあたっては、まず死亡診断書または死体検案書が交付されていることを確認する必要があります。

〇死亡届

死亡について知っておくべきことは次のことです。

1. 死亡の届け出は、届け出義務者(2.参照)死亡の事実を知った日から7日以内(但し、国外で死亡した場合には、死亡の事実を知った日から3カ月以内)に行わなければなりません。(戸籍法第86条第1項)

2. 死亡届を届け出る義務のある人は、順に、①同居の親族、②その他の同居者、③家主、地主または家屋若しくは土地の管理人、となっています。(戸籍法第87条第1項)

3. 死亡届は、届け出義務者の順にかかわらず行うことができます。また、同居している親族以外の親族でも行うことができます。(戸籍法第87条第1、2項)

4. 死亡の届け出は、死亡した本人の本籍地、届け出人の居住地以外に、死亡した土地の市区町村で行うことができます。(戸籍法第88条第1項)

5. 死亡地が明らかでないときは、死体が最初に発見された地で、汽車その他の交通機関の中で死亡があったときは死体をその交通機関から降ろした地で、航海日誌を備えない船舶の中で死亡があったときは、その船舶が最初に入港した地で、死亡の届け出をすることができます。(戸籍法第88条第2項)

市区町村の戸籍係への死亡届の提出は、届け出人以外でも代行することができますが、届け出人の印鑑を持参する必要があります。また死亡届は24時間受け付けています。

〇死体火・埋葬申請書、許可証

1. 死亡届を市区町村に提出して受理された後、死体の火葬・埋葬許可の申請を提出します。死亡届を受理した市区町村はこれに対して許可書を発行します。(最近は死亡届を提出すると火葬許可証を交付する市区町村が多い。)

2. 埋葬(=土葬)または火葬は死亡後24時間以内はできません。但し、一類・二類・三類感染症を保持した遺体の場合には、原則火葬で、かつ、24時間以内であっても火葬ができます。

3. 火葬・埋葬許可証(最近は埋葬=土葬がほとんどないために火葬許可証と言われることが多い)は、死亡届を受理した市区町村が発行しますが、火・埋葬許可証があれば、どこの地であっても火葬(または埋葬)することができます。但し死亡届を提出した市区町村とは別の土地で火葬(または埋葬)をする場合は、願書が必要なことがあります。

4. 誰も火葬または埋葬する人がいない場合には死亡地の市区町村がこれを行います。

5. 火葬した後に墓地等に納骨(焼骨の埋葬または収蔵)する場合には火・埋葬許可証に火葬済みであることの証印を火葬場で受け、それを墓地等の管理者に提出する必要があります。

6. 分骨する場合には、火葬場の管理者より、分骨する数だけの分骨証明(=火葬証明書)を発行してもらい、分骨する際に墓地等の管理者に提出する必要があります。(分骨証明は、本骨の埋蔵または収蔵元の管理者から、埋(収)蔵証明書として得ることも可能。)

〇末期の水

死の際あるいは死亡直後に死者の口に捧げる水を「末期の水」あるいは「死水」と言います。方法はさまざまあります。

1.綿棒に水を含ませて唇を潤す。

2.割り箸に脱脂綿を巻き付け、それに水を含ませて唇を潤す。

3.新しい筆に水を含ませて唇を潤す。

4.茶碗の水に樒の葉や鳥の羽根、脱脂綿を浮かばせ、それで唇を潤す。

臨終に立ち会った人全員が行いますが、元来は蘇生を願う民俗的儀礼であると共に、一人一人が故人に別れを告げる大切な儀礼です。

〇遺体の病院での死後の処置

病院で亡くなった場合、看護師が遺体を消毒したり、整えたりしますが、これを「死後の処置」または「清拭」と言います。(「エンゼルケア」などといわれることもあります。病院で行われない場合には葬祭従事者の仕事となるので詳しく紹介します。)

目的は、死者の尊厳を守るためにきれいに遺体を整えることと、遺体に対して公衆衛生上の処置を施すことにあります。遺体からの感染を防ぐため、白衣、マスク、ゴム手袋を着用し作業します。

①準備するもの

綿(脱脂綿、青梅綿)、割り箸、ガーゼ、包帯、絆創膏、油紙、T字帯、剃刀、剪刀(外科用はさみ)、くし、ヘアブラシ、輪ゴム、清拭用具、消毒液(ヒビテンまたはクレゾール)、便器及び尿器、膿盆、着替え、シーツ、ガウン、マスク、手袋

②直後の処置

1.医師による死亡判定後、死者に一礼し、使用物品であるチューブ、器具類を取り除く。

2.義歯がある場合はつける。口を閉じ下顎を引く。顔面の汚れ等を確認し、目を閉じさせる。死者が身につけていた貴金属類は外して遺族に手渡す。

3.末期の水(死水)の準備(綿棒、水の入った湯飲み)をし、室外に去り、遺族に最後の対面をしてもらう。

4.家族に処置内容を説明し、以下、家族の希望によっては一緒に作業をする。

③内容物の排出と全身の清拭

1.胃の内容物の排出:掛け物を除き、顔の横に膿盆を置き、顔を横に向け、手の平で胃部を押さえて吐かせる。必要に応じて吸引する。

2.便・尿の排出:便器・尿器をあてて、下腹部に両手をあてて恥骨に向かって圧迫して膀胱や腸の内容物をできるかぎり出す。

3.清拭:全身を消毒液(または湯)で丁寧に清拭する。

④綿を詰める

1.割り箸を用いて<鼻><口><耳><肛門><膣>の順に綿を詰める。

2.綿の詰め方は、最初に脱脂綿、次に青梅綿を詰める。顔面の鼻・口・耳は再び脱脂綿を詰める。この際、外から綿が見えないように注意する。

3.肛門には綿を詰めた後、場合により紙オムツをあて、T字帯(場合により縦結びに)をし、下着を装着する。

4.顔面の様子が衰弱している場合には頬に少量の綿を入れて(含み綿)膨らませる。

5.創部(傷)にガーゼをあて、包帯または厚めのガーゼでカバーする。

⑤衣服の着替え

1.新しい着物に着替えさせる。※後の納棺などの際に着替えさせようとすると硬直していて難しい場合があるので、予め着替える服を用意しておいて清拭の際に行うようにするのも一つの法です。

2.この際に(死者の宗教を考慮したうえであるが、一般的には)着物は左前にする。

3.衣類の紐は縦結びにすることが多い。

⑥化粧

1.髭を剃る。ガーゼで石鹸と湯で皮膚を湿らせてから、皮膚を伸ばしながら剃る。剃刀は寝かせる。

2.女性の場合には薄化粧する。

3.必要に応じて手足の爪を切る。

4.下顎が下がる時は、タオルを巻いたものを顎の下に挟むか、包帯または三角布で吊るして口を閉じる。

5.瞼が閉じないときは、ティッシュペーパーを小さく切って、瞼と眼球の間に入れて瞼を閉じる。

6.髪を整える。

7.場合により、胸に手を組ませる。(仏教の場合のみ)

8.シーツを交換し、顔を白布で覆い、一礼。

9.遺族に処置の終了を告げ、後片付けをする。

この死後の処置(清拭、湯かんと称することもあります)は、一般に有料です。処置の後、遺体はしばしばストレッチャーで遺体安置室(霊安室)に移され、引き取りを待ちます。自宅で死亡した場合も、主治医が死亡判定をした後に看護師が死後の処置を行うことがありますが、そうでない場合には葬祭業者が行います。

〇遺体の搬送

病院等で亡くなった場合には、遺体を自宅などの安置場所に搬送します。これは「自宅へ下げる」ことを省略して、しばしば「宅下げ」と称します。

自宅その他への搬送は、遺体搬送を目的とした霊柩自動車(通常バン型)によって行われますが、乗用寝台車による搬送も行われます。乗用寝台車は旅客運送を基本としているため、本来的には遺体搬送には不向きとされていますが、慣例的に容認されています。

霊柩運送事業の許可を得ていない葬祭業者の車での搬送は違法とされていますので注意が必要です。このほか、遺族が自家用自動車で搬送することも可能ですが、犯罪等の嫌疑がかかることもあるため、死亡診断書の携行が必要です。

霊柩運送事業の許可を得ていない葬祭業者が自社の車で搬送するのは、有料であればもちろん違法ですし、無料であってもその費用は葬儀施工費用の中に含まれているとみなされますので、原則的に違法と解釈されています。

〇搬送の際の遺体の取り扱い

遺体引き取りの際、連絡を受けた死亡者名、遺族名の確認と共に死亡診断書を確認し、さらにできるだけ医師本人より感染症の危惧その他遺体取り扱いに関する注意をうけることが大切です。

しかし、残念なことに医療機関からはプライバシーの侵害を理由に遺体に関する公衆衛生上の情報は必ずしも充分には与えられていません。6割を超える遺体が何らかの感染症を保持し、さらに約15%は危険な感染症を保持しているというデータもあります。したがって遺体を取り扱う際には、感染症を保持していることを前提にした慎重な配慮が必要です。

このように、遺体の取り扱いは、家族および取り扱う業者に対する公衆衛生上の観点からも慎重を要する事柄です。したがって、マスク、白衣の着用が望ましいのですが、最低限ビニール袋(使い捨て)を着用し、遺体をシーツで包み、遺体を圧迫しないように注意してシーツごとストレッチャーに載せます。体液や血液に素手で触れないように注意します。

終了後は流水で充分に手洗いをし、アルコール消毒を行うと共に、ストレッチャーや搬送車の消毒を行います。

病理解剖後の場合にはしばしば病院で納棺を済ませてから遺体を自宅へ搬送するとになります。

遺体を取り扱う際には、最初に深く一礼し、終始故人の尊厳を守るべく、ていねいに取り扱うことが重要です。

〇献体の場合

献体とは、医学部や歯学部の学生の教育のために行われる解剖実習に遺体を提供する、との本人の意思に家族が同意して、大学医学部、歯学部、医科大学に事前に登録しておくことです。献体登録した遺体に対して行う解剖を「正常解剖」と言います。

大学側は、原則、死後48時間以内の遺体の引き取りを希望しています。

故人が献体登録をしているかどうかを確認し、登録している場合には、大学側と引き渡し方法、日時の打合せをします。

一般的には、通夜および葬儀・告別式を通常通りに行い、出棺では大学側が用意した車に遺体を載せ、火葬場ではなく大学に移送します。献体された遺体は、解剖実習の後、大学側が火葬して遺骨にして遺族に返還されます。通常1~3年かかります。

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死の判定と死因調査

人の死は、法律的には医師により死亡診断書または死体検案書が発行されたことをもって確定します。①呼吸停止、②心拍停止、③瞳孔散大・対光反射消失が「死の3徴候」と言われ、医師はこの3点の不可逆的停止によって死の判定を行っています。そして一般に呼吸を停止した時刻あるいは脈がとれなくなった心拍停止の時刻をもって死亡時刻としているようです。

これが「心停止」と言われる死の判定法で、法解釈上も確定しているものです。これに加えて、次項で説明する「脳死」判定のいずれかによって死は判定されます。

 

「不可逆的停止」とあるのは、いったん自発呼吸が停止しても直後に人口呼吸を施すことにより呼吸が再開されたり、強心剤などにより停止した心臓が動き出すこともあり、一時的な機能停止は必ずしも絶対的ではないからです。かつて明治中期に墓埋法で法定伝染病患者の死以外においては死後24時間以内の火葬あるいは土葬を禁じたのは、生者埋葬を避けるためでした。しかし、不可逆的心停止になると身体の各臓器への血液供給が不可能となり、蘇生の可能性はなくなりますので、今では医師の判定をもって死が法律的にも確定しています。

 

ところが3徴候による死の判定は、人口呼吸器(レスピレータ)の出現によって、呼吸と心臓の拍動が維持できるようになるいわゆる「脳死」が現れたのです。脳死に陥ると生命は蘇生することはなく、脳死状態もいつまでも固定化されることはありません。脳死後1日から1週間で心停止に至るとされます。

これに臓器移植の問題がからんでくることにより、脳死をもって人の死とするか、あくまで心停止をもって人の死とするかが問題になりました。しかし、心臓移植以外に回復の望みのない患者への移植が可能となり、海外での心臓移植手術しか方法のなかった患者には道が開かれることになります。これには脳死判定の基準の確立という医学的問題や、死生観の問題の他、臓器売買の可能性はないかなど社会的に検討すべき課題がありました。

 

昔、医療が発達する以前は、息を引き取り、体温が低下し、身体が硬直し、という死のプロセスを判断して死を容認してきました。近代に入り、死は医師が判定するものとなり、その判定基準として死の3徴候が定義化し、そこに科学技術の発達により、もう一つの死「脳死」が加わりました。しかし、死を点として見るのではなく、プロセスを経ることで死を受け入れていくという感情はいまだに大きなものがあります。死の判定は単に医学的な問題だけではなく、社会的な合意が必要な問題なのです。

 

臓器移植法により、脳死者からの臓器移植には、ドナーカードなどによる本人の生前意思の表明に加えて、家族に対する脳死についての充分な説明と同意が必要とされています。脳死判定の基準も定められ、脳死判定を受けるか否かも本人の意思・家族の同意が必要となっています。臓器の売買も禁止され、それを防ぐ策も法律には折り込まれました。

臓器移植法により、人間にとって死は1つであるが、死の判定方法として死の3徴候(いわゆる心臓死)と全脳の不可逆的停止(いわゆる脳死)によるものがある、と解されます。

 

戸籍法第86案第2項に、死亡届には死亡診断書または死亡検案書を添付するよう義務付けています。通常の病死あるいは老衰しなどの自然死であることが明らかな場合には、診察・治療にあたっていた医師が死亡診断書を発行します(医師法第19条)

しかし、突然死の場合や長く医者にかかっていないで死亡した場合は、自然死であっても医師は死亡診断書を発行できません(医師法第20条)警察の検視後、監察医などが検案して死亡検案書を発行します。病死あるいは自然死以外の異状死体、あるいは犯罪の疑いのある死体の場合には、警察に届け、その検視を経て、監察医または警察の嘱託医が検案して死体検案書を発行します。

警察による検視、監察医などによる検案が必要なケースは、まとめると次のようになります。

①病死あるいは自然死であっても生前に診察・治療していた医師がいない場合

②病死あるいは自然死であるかどうか不明な場合

③指定された感染症による死、中毒死などの場合

④溺死、事故死、災害死、自殺などの非犯罪死の場合

⑤殺人、過失致死などの犯罪死あるいはその危惧がある場合

 

死体解剖保存法第8条第1項に、各都道府県知事は、その地域内における伝染病や中毒又は災害により死亡した疑いのある死体や死因の明らかでない死体について、その死因を明らかにするため監察医を置き検案や解剖させることができる、とあります。

そして「監察医を置くべき地域を定める政令」により東京23区、大阪市、横浜市、名古屋市、神戸市の5地区に監察医を置くことが定められています。

 

まず、監察医あるいは警察の嘱託医などが検案(検死)します。検視される遺体は全死亡者の10~15%あります。これに対して犯罪死のおそれがあるときに行う解剖を、「司法解剖(または法医解剖)」といいます。司法解剖は年間3000~4000件行われています。診察・診断を受けていた病院、医療機関で行う解剖は「病理解剖」と言います。病理解剖には原則として遺族の同意が必要とされます。

 

平成13年の死亡者総数は970,331人でしたが、死因別の順位は次の通りでした。これを推移で見てみましょう。(厚生労働省大臣官房統計情報部「平成13年人口動態統計年報」による)

 

〇死因別順位(2001年)

①悪性新生物     30.1%

②心疾患       14.8%

③脳血管疾患     13.2%

④肺炎         8.5%

⑤不慮の事故      3.9%

⑥自殺         2.9%

⑦老衰        2.2%

➇腎不全       1.8%

⑨肝疾患       1.6%

⑩糖尿病       1.2%

⑪高血圧性疾患    5.9%

⑫結核        2.4%

 

がん(悪性新生物)による死亡者が全体の3分の1近くにまでなっています。

 

葬祭業者が遺体を取り扱えるのは、法律的に死が確定した後、つまり医師が死亡を判定した時点以降です。それを証明するのが医師によって発行される死亡診断書または死体検案書です。それ以前に「遺体」に対して何らかの処置を施すこともできないため、死亡の連絡があった場合には、必ずこのことを確認する必要があります。

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死の判定と死因調査

〇死の判定

人の死は、法律的には医師により死亡診断書または死体検案書が発行されたことをもって確定します。したがって、死亡診断書または死体検案書が死亡届提出の必須条件になります。

では医師はどういう根拠で死亡を判定しているのでしょうか。

伝統的に、①呼吸停止、②心拍停止、③瞳孔散大・対光反射消失が「死の3徴候」と言われ、医師はこの3点の不可逆的停止によって死の判定を行っています。そして一般に呼吸を停止した時刻あるいは脈がとれなくなった心拍停止の時刻をもって死亡時刻としているようです。

これが「心停止」と言われる死の判定法で、法解釈上も確定しているものです。これに加えて、次項で説明する「脳死」判定のいずれかによって死は判定されます。しかし、法律的な死である心停止以降も「生きている」臓器や細胞はあり、個体としての死はゆるやかに進みます。

 

「不可逆的停止」とあるのは、いったん自発呼吸が停止しても直後に人口呼吸を施すことにより呼吸が再開されたり、強心剤などにより停止した心臓が動き出すこともあり、一時的な機能停止は必ずしも絶対的ではないからです。

かつて明治中期に墓埋法で法定伝染病患者の死以外においては死後(死判定後)24時間以内の火葬あるいは土葬を禁じたのは、生者埋葬を避けるためでした。しかし、不可逆的心停止になると身体の各臓器への血液供給が不可能となり、蘇生の可能性はなくなりますので、今では医師の判定をもって死が法律的にも確定しています。

 

〇「脳死」の問題

ところが3徴候による死の判定は、人口呼吸器(レスピレータ)の出現によって、大きく揺らぐことになります。自発呼吸が不可逆的に停止しても、人口呼吸器によって呼吸と心臓の拍動が維持できるようになるいわゆる「脳死」が現れたからです。

人口呼吸器の使用によって、呼吸と心拍の停止より先に、脳のすべての機能が不可逆的に停止する状態が発生するようになりました。これが脳死の状態です。脳死に陥ると生命は蘇生することはなく、脳死状態もいつまでも固定化されることはありません。脳死後1日から1週間で心停止に至るとされます。

そして、これに臓器移植の問題がからんでくることにより、脳死をもって人の死とするか、あくまで心停止をもって人の死とするかが問題になりました。脳死後でも人口呼吸器を備えて心臓を生かしておけば、心臓移植以外に回復の望みのない患者への移植が可能となり、海外での心臓移植手術しか方法のなかった患者には道が開かれることになります。

しかし、これには脳死判定の基準の確立という医学的問題や、死生観の問題の他、臓器売買の可能性はないかなど社会的に検討すべき課題がありました。

昔、医療が発達する以前は、息を引き取り、体温が低下し、身体が硬直し、という死のプロセスを判断して死を容認してきました。近代に入り、死は医師が判定するものとなり、その判定基準として死の3徴候が定義化し、そこに科学技術の発達により、もう一つの死「脳死」が加わりました。しかし、死を点として見るのではなく、プロセスを経ることで死を受け入れていくという感情はいまだに大きなものがあります。死の判定は単に医学的な問題だけではなく、社会的な合意が必要な問題なのです。

脳死は先進国では1%ぐらいあり、交通事故などによる脳挫傷などの頭部外傷、脳出血などの脳血管障害や一時的な心停止による脳の無酸素症などによって発生すると言われています。

臓器移植法により、脳死者からの臓器移植には、ドナーカードなどによる本人の生前意思の表明に加えて、家族に対する脳死についての充分な説明と同意が必要とされています。脳死判定の基準も定められ、脳死判定を受けるか否かも本人の意思・家族の同意が必要となっています。臓器の売買も禁止され、それを防ぐ策も法律には折り込まれました。

臓器移植法により、人間に心臓死と脳死という2つの死が認められたというよりも、その人間にとって死は1つであり、死の判定方法として死の3徴候(いわゆる心臓死)と全脳の不可逆的停止(いわゆる脳死)によるものがある、と解されます。

 

〇死亡診断書と死亡検案書

戸籍法第86案第2項には、死亡届には、やむを得ない事由を除き、死亡診断書または死亡検案書を添付するよう義務付けています。記載用紙も左が死亡届、右が死亡診断書(死体検案書)と組になっています。

通常の病死あるいは老衰しなどの自然死であることが明らかな場合には、診察・治療にあたっていた医師が死亡診断書を発行します(医師法第19条)

突然死の場合や長く医者にかかっていないで死亡した場合には、病死あるいは自然死であっても医師は死亡診断書を発行できません(医師法第20条)警察の検視を経て、監察医または警察の嘱託医が検案して死亡検案書を発行します。病死あるいは自然死であってもその死因が診察・治療していない医師には明らかでないことと、自然死以外の可能性がないか調べるためです。

病死あるいは自然死以外の異状死体、あるいは犯罪の疑いのある死体の場合には、警察に届け、その検視を経て、監察医または警察の嘱託医が検案して死体検案書を発行します。

警察による検視、監察医などによる検案が必要なケースは、まとめると次のようになります。

①病死あるいは自然死であっても生前に診察・治療していた医師がいない場合

②病死あるいは自然死であるかどうか不明な場合

③指定された感染症による死、中毒死などの場合

④溺死、事故死、災害死、自殺などの非犯罪死の場合

⑤殺人、過失致死などの犯罪死あるいはその危惧がある場合

 

〇監察医制度

死体解剖保存法第8条第1項に次のようにあります。

 

政令で定める地を管轄する都道府県知事は、その地域内における伝染病、中毒又は災害により死亡した疑いのある死体その他死因の明らかでない死体について、その死因を明らかにするため監察医を置き、これに検案をさせ、又は検案によっても死因の判明しない場合には解剖させることができる。

 

そして「監察医を置くべき地域を定める政令」により東京23区、大阪市、横浜市、名古屋市、神戸市の5地区に監察医を置くことが定められています。

 

〇まず、監察医あるいは警察の嘱託医などが検案(死体を調べて検分するのでこれを検死とも言います。あくまで外見的調査によります)します。検視される遺体は全死亡者の10~15%あります。

これに対して犯罪死のおそれがあるときに行う解剖を、「司法解剖(または法医解剖)」といいます。司法解剖は年間3000~4000件行われています。行政解剖の途中で犯罪死の疑いが出て、司法解剖に移行することもあります。

診察・診断を受けていた病院、医療機関で行う解剖は「病理解剖」と言います。病理解剖には原則として遺族の同意が必要とされます。

 

〇死因

2001(平成13)年の死亡者総数は970,331人でしたが、死因別の順位は次の通りでした。これを推移で見てみましょう。(厚生労働省大臣官房統計情報部「平成13年人口動態統計年報」による)

 

〇死因別順位(2001年)

①悪性新生物     30.1%

②心疾患       14.8%

③脳血管疾患     13.2%

④肺炎         8.5%

⑤不慮の事故      3.9%

⑥自殺         2.9%

⑦老衰        2.2%

➇腎不全       1.8%

⑨肝疾患       1.6%

⑩糖尿病       1.2%

⑪高血圧性疾患    5.9%

⑫結核        2.4%

 

がん(悪性新生物)による死亡者が全体の3分の1近くにまでなっています。

 

〇葬祭業者は法的に死が確定しないと遺体を取り扱えない

葬祭業者が遺体を取り扱えるのは、法律的に死が確定した後、つまり医師が死亡を判定した時点以降です。それを証明するのが医師によって発行される死亡診断書または死体検案書です。それ以前には「遺体」の取り扱いはもちろん、「遺体」に対して何らかの処置を施すこともできません。

死亡の連絡があった場合には、必ずこのことを確認する必要があります。

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