〇グリーフワークとは
「グリーフワーク」は葬儀の機能として近年注目されているものです。愛する家族の一員を喪った家族は、悲しみに襲われます。これは特別なことでも病気でもなく、自然なことです。この悲しみは悲しむことにより自然に治癒されていきます。この遺族の悲しみの営みを「グリーフワーク」と呼びます。
グリーフワークは直訳すると「悲しむ作業」です。グリーフは英語で、通常の悲しみとは別の、特に死別などで引き起こされる深い悲しみ、非嘆を表す言葉です。
葬儀は、遺族の心の深い悲しみを思いやり、グリーフワークに役立つものとなることが大切です。このためには死別によって引き起こされる悲しみとはどんなものかを知る必要があります。
〇死別の非嘆の様々な局面
亡くなる人と深い愛情関係に結ばれていた家族、あるいは、突然の死に出会った家族が、死と対面してたどる心理的プロセスは次のように理解されます。
※以下は、E・キューブラー・ロス『死ぬ瞬間』により、死を告知された末期患者の心理プロセスの骨格を参考にしながら、野田正彰『喪の途上にて』、A・デーケン『死とどう向き合うか』などを参照にしてまとめたものです。
〔第1段階 衝撃〕
ショックを受けて取り乱す人、あるいは、ショックによって現実感覚が一時麻痺状態に陥る人がいます。表面的には平静ですが、内面ではショックを受けており、平静状態と呆然状態が交互に現れる例もあります。
〔第2段階 否認〕
死亡の事実そのものを認めず、きっとどこかに生きていると思いこんでいたり、あるいは、死亡の事実は一応客観的に認識してはいたりするものの、主観的にはまだ生きているという思いが行き来している状態です。
〔第3段階 パニックや怒り〕
自分が制御できなくなりパニック状態に陥ったり、あるいは理不尽で不当な運命に対して激しい怒りが生じたりします。この怒りを制御したり、内にとどめておくと、怒りは反転して自分に向かい、自己破滅に陥ったり、心身の健康を損なったりする危険性があります。
また、周囲の人々や死者に対して敵意の感情を抱いたり、心身の健康を損なったりする危険性があります。
また、周囲の人々や死者に対して敵意の感情を抱いたり、死者に対する自分の過去の行為を悔い、「あんなことしなければよかった」「ああすればよかった」と罪の意識に苛まれたりすることがあります。
〔第4段階 抑鬱と精神的混乱〕
空想の中で死者がまだ生きていると思い込んで、そのように実生活でも振る舞ったり、孤独感に襲われて人間嫌いになったり、気が沈んで引きこもってしまったりします。また、やる気を失い、何をしていいかわからない状態になることがあります。この抑鬱状態はしばしば長く続きます。
〔第5段階 死別の受容〕
つらい現実をみつめ、死の事実を受け入れようとし、ユーモアや笑いを取り戻すことにより、悲しみから立ち上がる状態です。
もちろん、全ての人がこれらの段階をそのまま辿るとは決まっていません。また、言葉で「悲しみ」と表現しても、死別の悲しみの表れ方は多様です。しかもこれは死別に出会った人が陥る自然な心理状態であって、けっして病気ではないということを理解する必要があります。
人の死とは、愛する人にとって心を揺り動かすほどの大変なできごとなのです。
〇悲嘆の処理に失敗する危険
多くの人は葬儀、四十九日、百ヵ日、一周忌という喪のステージ(段階、場面)を踏むにつれて、悲しみの状態を乗り越えて、日常生活に復帰できる状態になります。かつての喪のステージは、死別した遺族の心情に合致したからこそ受け入れられたシステムだったと言えるかもしれません。
しかし、全ての人がこうした辛い悲しみの過程(=グリーフプロセス)を無事通過できるとは、限りません。悲しみを無理に抑制することにより、心身に異常を来して心身症に陥ったり、いつまでも悲しみの状態にとどまったり、あるいは自己破壊から自殺衝動に走ったりする危険性があります。
その徴候は、悲しみ、怒り、敵意を表現しなかったり、異常な科目状態に陥ったり、重篤な睡眠障害に陥ったり、自尊心が失われたり、罪意識をもつ対象が死者以外のものにまで広がったりすることに現れます。こうした状態に陥った場合、精神科医などの専門家の診療を受ける必要があります。
〇死別の非嘆のケア(グリーフケア)
死別によって強い悲嘆に陥っている人へのケア(=グリーフケア)の仕方にマニュアルはありません。個別状況の違いが大きいのです。そのことを理解したうえで次の原則を頭に入れておく必要があります。
1.「忘れろ」「がんばれ」「しっかりしろ」は避ける
悲しみにある人に、悲しい事実を忘れることを強いるのは一般にマイナスになります。むしろ悲しい事実をみつめることが大切です。また、「がんばれ」「しっかりしろ」は励ましのつもりでしょうが悲しみにある人にはかえって負担が大きいのです。むしろ悲しみの状態を理解してあげることが必要です。
2.話を聞いてあげる
悲しみの中にある人に大切なのは、説教したり、助言したりすることではありません。同じ目線に立って、その人の想いを静かに聞いてあげることです。しかし、無理して話をさせることは逆効果になることもあります。相手が話したいときに、その人の想いを吐き出させ、怒りに対しても遮るのではなく、その怒りを発散させることが必要です。
3.一人にしない
孤独感が強い、周りの人に敵意を抱く、そんな状態のとき大切なことは、気をつけて側にいてあげることです。監視するのではなく、その人の側に静かに寄り添ってあげることが必要です。
4.悲しみを避けない
子どもを交通事故で亡くした親にかわいそうだからと傷ついた子どもに会わせない、あるいは残酷すぎるからと火葬場に行かせない、などというのは周りの配慮から出る行動ですが、時折、これが逆効果になり、遺族の死の現実をなかなか受け入れられない結果になることがあります。本人が望むのであれば遮らず、辛い現実であっても対面させることが大切です。
親を亡くした子どもにも「長い旅に出た」「お星さまになった」と現実をあいまいにして説明するのではなく、子どもが真実を知ることを望むなら「死亡した事実」をきちんと説明すべきです。親を喪った子どもは、死の悲しみを論理的に表現できないことがあります。しかし、感情としては理解しており、不安・悲しみが行動などにさまざまな形で現れ、情緒が不安定になったり、暴力的になったり、落ち着きを失ったりします。注意して見守る必要があり、悲しみを表現させる努力が必要です。
5.自分の悲しみの体験を分かち合う
ケアする人が家族の死に出合った体験をもっているのであれば、自分の体験した悲しみを思い起こし、その気持ちを大切にして相手に接することで、しばしば共感し合うことができます。また、そうした体験のない人も自分の場合のことを想像して、その立場で相手に接するとよいでしょう。
6.事務的煩雑さの負担をかけない
死後の事務的な処理が煩雑で、負担になるようでしたら、周囲の人が代行して、その人の気持ちの負担を軽減してあげることは大切なことです。しかし、もしその人が、それをすることを心から望むならば、代行を申し出ることがあっても、無理やりその仕事から引き離すことはマイナスになることがあります。
7.笑いや休息は不謹慎ではない
悲しみにある人が通夜や葬儀の場で他人の冗談に笑っても、疲れて休息をとっても「不謹慎である」と非難してはなりません。本人が自然に行うことであれば、悲しみというストレスには、笑い、ユーモア、休息は必要なことである、と理解すべきです。
8.健康管理に気をつける
遺族は不眠に陥ったり、しばしば健康を害しやすくなったりします。健康に注意することと、適切な運動が必要となります。
〇グリーフワークの今日的状況
家族分散や核家族化が進み、同じ家族であっても同じ程度の悲しみを体験するとは限りません。ある人々は死を納得し、それほどの悲しみも感じない一方で、少数の特定の家族だけが深い悲しみにおちいることがよくあります。誰が悲しみを抱えているか、よく注意する必要があります。
また、最近は長い介護の末に亡くなる方が増えています。かぞくが医師から早い段階で死の告知を受けている場合、入院中のまだ生きている段階なのに、死別の非嘆が家族を襲うこともあります。
さらに、老人ホーム、老人病院、その他の医療機関に長期入院の末に亡くなったときには、死別の非嘆が家族を襲うのではなく、付き添いの人、看護師など家族以外の人に現れるような事態もあります。そのた、家族よりも親しくしていた友人などに悲嘆現象が生じることもあります。
葬儀の場面においては、家族だけでなく、こうした悲しみを体験している死者と身近な人の心にも配慮する必要があります。
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